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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9711号 判決

原告

永井將雄

ほか一名

被告

松本豊子

ほか二名

主文

一  原告永井將雄に対し、被告松本豊子は金三五五万四六一二円、被告松本敏和は金七一〇万九二二四円、被告松本行紀は金一七七万七三〇六円及び右各金員に対する平成三年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告永井秀雄に対し、被告松本豊子は金三五五万四六一二円、被告松本敏和は金七一〇万九二二四円、被告松本行紀は金一七七万七三〇六円及び右各金員に対する平成三年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告永井將雄に対し、被告松本豊子は金五〇〇万円、被告松本敏和は金一〇〇〇万円、被告松本行紀は金二五〇万円及び右各金員に対する平成三年八月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を連帯のうえ支払え。

二  原告永井秀雄に対し、被告松本豊子は金五〇〇万円、被告松本敏和は金一〇〇〇万円、被告松本行紀は金二五〇万円及び右各金員に対する平成三年八月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を連帯のうえ支払え。

第二事案の概要

本件は、交通死亡事故被害者の遺族である原告らが、被害者が同乗していた車両運転者(本件事故で死亡)の相続人に対し民法七〇九条に基づき、同車両保有者に対し自倍法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求(一部請求)した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  当事者(争いのない事実、甲一〇)

原告永井將雄(以下「原告將雄」という。)、原告永井秀雄(以下「原告秀雄」という。)は、訴外永井貴美子(昭和一六年九月一五日生、本件事故当時四九歳、以下「亡貴美子」という。)の兄弟であり、被告松本豊子(以下「被告豊子」という。)は、訴外松本司(昭和八年三月七日生、本件事故当時五八歳、以下「亡司」という。)の妻、被告松本敏和(以下「被告敏和」という。)及び被告松本行紀(以下「被告行紀」という。)は、亡司の子である。

2  事故の発生(争いのない事実、甲一ないし五)

(1) 発生日時 平成三年八月一五日午後三時三〇分ころ

(2) 発生場所 岐阜県大野郡丹生川村大字月影四八番地先国道一五八号線上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 関係車両

〈1〉 亡司運転の軽四輪貨物自動車(福井四〇な八八六七、以下「松本車」という。)

〈2〉 訴外井上敦司運転の事業用乗合自動車(岐二二か二〇八八、以下「井上車」という。)

(4) 事故態様 松本車が国道を東から西に向かつて進行中、西から東に向かつて進行してきた井上車と本件事故現場で衝突したもの

(5) 結果 松本車助手席に同乗していた亡貴美子が平成三年八月一六日午前一時五〇分、収容先の久美愛病院において全身打撲により死亡した。

3  責任原因(争いのない事実、弁論の全趣旨)

(1) 被告らの責任

本件事故は、亡司の過失により発生したものであるから、被告らは、亡司の相続人として、本件事故による損害に対し、民法七〇九条に基づき、その相続分に応じて、被告豊子が二分の一、被告敏和及び被告行紀が各四分の一の割合で賠償義務を負う。

(2) 被告敏和

被告敏和は松本車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自倍法三条に基づき本件事故による損害について賠償義務を負う。

4  損害の填補

原告らは、自倍責保険から一三六〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  好意同乗による減額

2  損害額

第三争点に対する判断

一  好意同乗による減額

1  前記争いのない事実に証拠(甲三ないし六、一〇、乙一、原告秀雄本人、被告豊子本人)を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故は、アスフアルト舗装された平坦な東西に延びる片側各一車線の国道一五八号線(以下「国道」という。)の東行車線上で発生したものである。本件事故現場付近は直線で対向車線の見通しは良好である。本件事故当時路面は乾燥していた。

(2) 亡司は松本車を運転して国道を東から西に走行中、本件事故現場手前約四二メートルの地点から直線道路であるにもかかわらず対向東行車線に進入し、同車線北端の縁石に衝突し、さらに、同車線を逆行して、道路中央付近の同車線上で国道を東進していた井上車と正面衝突した。

(3) 右松本車の走行経路には、衝突後の押し戻しのタイヤ痕があるだけで、衝突までに制動措置をとつたと認められるスリツプ痕は認められなかつた。

(4) 亡司は、事故前日の午後一〇時ころ、松本車を運転して、福井市内の自宅を出て、亡貴美子を同乗させ、乗鞍岳にある慰霊碑に参つて日帰りで福井に帰る途中、本件事故を惹起させた。

以上の事実が認められる。

2  右の松本車の事故直前の走行状況、本件事故現場の痕跡、亡司の長時間運転等の事実によれば、本件事故は亡司の居眠り運転によつて惹起されたと推認することができる。

右事実に基づき、好意同乗による減額の相当性、減額割合を検討すると、亡貴美子は前日から松本車に同乗していたと認められるところ、松本車の前日から本件事故当日までの走行距離、亡司の年令等も考慮すると亡司は睡眠不足による過労運転の状態であり、これを亡貴美子も認識して同乗していたと推認することができる。このように事故の発生の危険が高いような客観的事情が存在することを知りながら、同乗していた場合には、損害を公平に負担させるという損害賠償法の理念に照らし、過失相殺の規定を類推して、同乗者の損害賠償額を減額するのが相当である。本件の前記事情に照らせば、その割合は一割をもつて相当とする。

二  損害額(各費目の括弧内は原告ら主張額)

1  逸失利益(二三〇八万二七六〇円)一三四六万四九四三円

証拠(甲六、原告秀雄本人)によれば、亡貴美子は死亡当時四九歳の健康な女子であり、独身であつたこと、二〇年程前から、会社経営者野村某に生活費の提供を受け、生活していたもので、この間無職であつたが、平成三年七月に右野村が死亡したため、生活に困り、同年九月から家政婦として稼働する予定となつていたことが認められる。右によれば、亡貴美子は本件事故がなければ六七歳まで稼働することが可能であり、その間平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の四五ないし四九歳の年平均賃金三〇五万二五〇〇円の七割程度の収入を得られる蓋然性が認められるから(独身で、死亡前二〇年間無職であつたことを勘案すると右が相当である。)、これを基礎として、生活費として五割を控除して逸失利益の現価を算定すると一三四六万四九四三円となる。

3,052,500×0.7×(1-0.5)×12.6032=13,464,943(小数点以下切捨て、以下同様)

2  死亡慰謝料(一八〇〇万円) 一五〇〇万円

亡貴美子が独身で、同居の家族はいなかつたこと、その他諸般の事情に照らすと、その慰藉料としては一五〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用(一〇〇万円) 一〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用相当の損害は一〇〇万円とするのが相当であり、これを原告らが按分で負担したことが認められる。

4  小計

右によれば、原告らの固有分及び亡貴美子から相続した損害金は二九四六万四九四三円となるが、前記好意同乗により一割の控除をすると、二六五一万八四四八円となり、前記既払金一三六〇万円を控除すると一二九一万八四四八円、原告ら各六四五万九二二四円となる。

5  弁護士費用(二八〇万円) 一三〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は原告ら各自につき各六五万円と認めるのが相当である。

六 まとめ

以上によると、〈1〉原告將雄の本訴請求は、被告豊子に対し金三五五万四六一二円、被告敏和に対し金七一〇万九二二四円、被告行紀に対し一七七万七三〇六円及び右各金員に対する不法行為の日である平成三年八月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で(なお、被告敏和と被告行紀の各債務は一七七万七三〇六円及びこれに対する遅延損害金の限度で、被告豊子と被告敏和の各債務は三五五万四六一二円及びこれに対する遅延損害金の限度でそれぞれ不真正連帯債務となる。原告秀雄の請求についても同様)、〈2〉原告秀雄の本訴請求は、被告豊子に対し金三五五万四六一二円、被告敏和に対し金七一〇万九二二四円、被告行紀に対し金一七七万七三〇六円及び右各金員に対する不法行為の日である平成三年八月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、いずれも理由がある。

(裁判官 高野裕)

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